2013.09.09 │ voiceインタビュー:システム開発の本質を学ぶために
今回は、和歌山大学の満田成紀准教授にお話を伺った。Webシステム開発の研究および教育にも携わっておられる立場から、これまでの活動を振り返っていただくとともに、enPiTとしての今後の抱負についてお聞きした。
システム開発の本質を学ぶために
-enPiTにはどのような形で関わられていらっしゃるのでしょうか?
和歌山大学としては、現在、九州大学プロジェクト(組込みシステム)と大阪大学プロジェクト(クラウドコンピューティング)に参加しています。組込みシステムでは、ロボットチャレンジをテーマとしています。
-今日はその組込みシステムのことをお伺いしたいと思います。組込みシステムの開発では、どのようなことが課題なのでしょうか?
Webシステムやビジネスアプリケーションの開発を主に行なってきた立場からすると、組込みシステムの開発においては、開発環境が整備されていないことが課題と言えます。ビジネスアプリケーションではシステム設計から実装までがある程度のつながりがあるというか、一貫した考え方で進めることができます。しかしながら、組込みシステムの場合、設計と実装のギャップがあまりに大きいのが現実です。設計時では考慮できなかったハードウェア特性の変化、システムの実行環境の多様性を、実装後にチューニングを通じて補っていくのが現実です。
加えて、組込みシステムはコードの信頼性がとても重視される分野です。過去に正しく動いたコードであれば、それがたとえ複雑な構成をしていたとしてもそのコードを優先して利用する傾向があります。ロジックが同じであってもコードが違うと別なものとみなされます。さらに、コードがある種の塊として扱われるため、保守が非常にやりにくいのです。
-enPiT が提供する教育をどのような学生に受けてもらいたいと思われますか?
良いモノを作りたいと思っている、またそれを理解することを欲している学生です。そうした意欲を持つ学生には是非受けて欲しいですね。enPiTでのコース教材は組込みソフトウェアをシステマティックに作る、美しいコードを作る技術を盛り込んでいます。そのため作り方の美しさを求めている学生に受けてもらいたいと考えています。
-教育の中で重視されていることはどのような点ですか?
モノ作りを中心としていますが、単に作ったものが動いたとか制御できたという結果だけでなく、開発プロセスも重要であることを理解してもらえるような講義を心がけています。たとえば、スケジュールどおりに進捗しているとか、無理や無駄がない、複数の案から適切なものを選択するにはどうするのが良いかという点も教えています。
-和歌山大学は2つの分野で参加大学としてenPiTに関わっていらっしゃいますが、学生を他大学に派遣する場合、懸念されていることはありますでしょうか?
費用と時間(移動)がかかるということですね。学生の負担は結構大きいといえます。この負担を軽減するためにも、同じ教材でできるだけいろいろな場所で講義が開催できれば良いと思います。また、受講のために学生が移動するのではなく、教員側が移動する方が実は効率は良いかもしれません。
遠隔講義は良いアイデアですが、ライブ感に欠けることもしばしばあります。むしろ、良い教材を各大学に配布してオフラインでも良いので学べるようにする方が良いのかもしれません。
-他大学との交流の観点から、期待される取り組みがあれば教えてください。
他大学との学生の交流は大きな刺激になっています。ただ、地理的に離れていると「距離」というものをどうしても意識せざるを得ません。この距離感をどうやって埋めるかが課題です。PBLらしいコミュニケーションツール(SNSも含めて)があってもよいと思います。
-今後、どのような企業、あるは大学との連携を望まれていますか?
私の場合、アプリケーションの開発にフォーカスしていることもあり、システム全体の中で、組込みシステムの技術をどのように活用していくかを常に考えています。この点が、ハードウェアとソフトウェアの両面をじっくりと学ぶ従来の組込みシステムの教育とは若干異なる点かなと思います。現在は、ネットワーク化されたデバイスをどのように活用していくかをいっしょに考えてくれる企業や大学との連携を求めています。
-enPiT の活動に期待することを教えてください。
多様化の時代、教員個人がカバーできる範囲は限られています。良い教材をもっとたくさん作って欲しいと思います。
和歌山大学システム工学部 デザイン情報学科 博士(工学)。研究テーマは、「ソフトウェア生産活動に対するコンピュータ支援のモデル化と支援環境の実現」。世の中の役に立つソフトウェアはどのようなものがあるか?また、そうしたソフトウェアをどのようにして効率良く開発するかを追究している。電子情報通信学会、日本ソフトウェア科学会、情報処理学会各会員。 |
(インタビュー・文 西村一彦)