事業期間:2012年度〜2016年度

2013.09.04 │ voiceインタビュー:企業、大学、学生が一体となり質の高い教育を実現

今回は、システム制御の講義を担当されている筑波大学の河辺徹先生にお話を伺った。「大規模コンテンツ時代の高度IT専門職人育成」という事業に携わっておられた立場から、これまでの活動を振り返っていただくとともに、enPiTとしての今後の抱負についてお聞きした。

企業、大学、学生が一体となり質の高い教育を実現

-河辺先生の研究テーマを教えていただけますか?

ロバスト制御、モデル予測制御といった制御理論とこれらの応用をテーマとしています。具体的には、電気自動車のモーター制御や複合機の温度制御といったことです。

電気自動車は電気のオン、オフでその動きを制御します。電源をオンにすればすぐに動かすことができますから、ガソリン車に比べてレスポンスははるかに良いわけです。しかし、その動きを制御するとなるととても高度な技術が必要です。また、省エネも含めて効率よく自動車を走らせる技術も求められています。この研究は、スマートシティやスマートグリッドの世界を実現する上で重要な基礎研究になっています。

-教育についてはいかがでしょうか?

筑波大学では、「高度IT人材育成のための実践的ソフトウェア開発専修プログラム(http://www.cs.tsukuba.ac.jp/ITsoft/)」というコースがあります。このコースはPBLを柱としており、通常の研究を主体とする修士課程とは別なものです。2年間で50単位の修得を必要としています。通常、修士2年間では30単位程度(うち12単位が修士論文)を取れば修了でますので、内容の濃いカリキュラムといえるでしょう。PBLは3から5名の学生から構成されたチームに教員がサポートにつきます。修士論文は必ずしも作成しなくてもよいことになっています。

私が担当しているのは「システム制御」という講義(1年次の春学期)です。ソフトウェア開発を主な内容としています。

どのようなスキルを修得できるのでしょうか?

1年次は「組込みソフト系」と「エンタープライズ系」をおおまかなターゲットとしています。プロジェクト運営をひと通り体験できる内容で授業が構成されています。学生はプロジェクトに欠かせないいくつかの役割(リーダー、実務担当者など)をほぼ均等に担当することになります。

組込みソフト系は課題が事前に与えられ、ライントレーサというロボットを制御します。エンタープライズ系は課題発見から顧客といっしょに検討していきます。組込みソフト系と異なり、特にテーマを設けません。顧客から要求をヒアリングすることで具体的なテーマに落としこんでいきます。たとえば、幼稚園の送迎バスのロケーションシステム、イタリア料理や理髪店の予約システムを作るといった例があります。

この教育を受ける際の条件を教えてください。

修士課程ですので、大学院入試があります。通常の修士課程とは入試の内容も別で情報基礎や面接を重視した入試となっています。なお、通常の修士課程との併願もできます。

学生のスキル評価はどのように行うのですか?

学生には、入学時、1年修了後、最終学年修了後にスキル診断という自己評価を行ってもらいます。本カリキュラムは高度情報通信人材育成支援センター(CeFIL)といっしょに行っており、現場で必要な知識を身につけることを主たる目的としています。企業からも新人研修なしでも十分に業務を遂行できるスキルが身についているという評価をいただいています。

この教育を充実させていく上での課題あれば教えてください。

入試の時期は学部4年生の夏ごろ(卒業研究のテーマがまだ決まっていないころ)になります。したがって、進路が確定した後で、卒業研究が進み、やはり研究コースの方が良いということで進路変更が行われるケースがこれまでにもありました。

また、本学の場合、同年代の学生でチームを編成するため、考え方が同じになりやすいようです。実際のシステム開発の現場では、年齢、バックグラウンドが異なるメンバーから構成されているのが一般的です。この点は、enPiT において社会人学生が多い産業技術大学院大学と連携できるので期待しています。

なお、カリキュラムの内容を充実させる目的で、毎年12月に、企業、大学、学生が参加する授業計画検討会を開催しています。学生からも辛辣な意見が出てきており、教員側の意識改革にもつながっています。

enPiT が提供する教育をどのような学生に受けてもらいたいと思われますか?

筑波大学の場合は、高度IT専修プログラムの学生にとっては必然的にenPiTの教育内容が必修となります。他の大学との混成チームを作ること以外は従来と変わりません。

高度IT専修プログラム以外の一般の修士課程の学生にとっては受講するかどうかは本人の希望次第になりますが、個人の適性に応じて多くの学生に受講してもらいたいと思います。ICT技術者を目指す人だけでなく,将来研究者を目指す人にも受けてもらいたいと考えています。

今後、どのような企業、あるいは大学との連携を望まれていますか?

CeFIL会員企業と協力していきたいと思います。前向きに検討をしていただいている企業もすでにあります。その他、機械・制御分野の企業も含めてなるべく幅広い業種からや海外企業からの参加を求めているところです。

大学に関しては、現時点で9-10校程度が参加表明をいただいています。全国に広がりつつあります。

enPiT の活動に期待すること、感想等があれば教えてください。

地域、分野を越えた多様性を拡大することで、画期的な教育となることを目指したいと考えています。また、社会人との交流も活発にしていきたいと考えています。

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筑波大学システム情報系 情報工学域
教授
河辺 徹

博士(工学)。スマートシティ、電気自動車、ハイブリッドシステム、ロバスト制御理論とその応用、ブレインマシンインターフェイスなどを中心に研究を展開。システム制御情報学会、計測自動制御学会、日本機械学会各会員。

(インタビュー・文 西村一彦)