事業期間:2012年度〜2016年度

2013.09.12 │ voiceインタビュー:PBL修了生に聞く~顧客と向き合い、システム開発を本格的に学ぶ

PBLのことは実際に受講した学生の方から聞くのが一番。ということで、このシリーズでは、これまでにPBLを受講された学生の皆さんに、受講動機や受講後に感じたことなどをお聞きします。今回は、筑波大学大学院システム情報工学研究科コンピュータサイエンス専攻に所属されている2名の学生の方に伺いました。PBL型の科目を有する「高度IT人材育成のための実践的ソフトウェア開発専修プログラム(http://www.cs.tsukuba.ac.jp/ITsoft/index.html)」の受講について感じられたことをずばりお聞きしました。

PBL修了生に聞く~顧客と向き合い、システム開発を本格的に学ぶ

情報系の学科を選択した理由を教えてください。

岡谷:コンピュータが好きでシステム開発に興味があり、いずれはシステムエンジニアになることを希望しています。大学院進学者向けの学内説明会に参加し、専攻の説明を聞いて入学したいと思いました。
財前:チームでの開発を経験したかったというのが大きな理由です。学部在籍時は一人で開発することが多く、社会に出る前に経験を積んで置きたいと思ったからです。企業からの講師から直接いろいろなことを学べる点も理由の一つです。

修了されたPBLの内容について教えてください。

岡谷:手芸用品のインターネット販売と近隣にある手芸教室への卸売りを行っている埼玉県内の会社向けのシステムを開発しました。この会社の年商は3億円程度で従業員は約17人、2名の役員を除き全員アルバイトとのことです。約9か月間、4名のチーム(全員修士課程1年)の体制で、ピッキング(倉庫から商品を取り出す業務)支援と限定的な在庫管理機能を持つサーバ・クライアント型のシステムを開発しました。顧客とのコミュニケーションは1.5週に1回程度、Skypeによるテレビ会議システムで行っていました。毎週1回授業でプロジェクト報告を行い、4人の先生方にプロジェクトの進め方についてアドバイスをいただきました。チーム内ミーティングは適宜(毎週2~4回)行っていました。
財前:私の場合は、大学の先生が利用されるGPUマシン上で動くプログラムのモデリングツールを開発しました。EclipseベースのモデリングツールでGUIが主に開発したところです。現状分析から始まり、GPUクラスタマシンと連携するアプリを最終的に納品しました。いずれ外部公開(オープンソース)を目指しています。3名のチームでプロジェクトを進めました。コーディングに最も時間がかかりました。ただ、最も意識したのはチームメンバー間の情報共有であった。中間報告など、プレゼンテーションのための資料作成や、最終的なパッケージ化といった細かな作業にも力を入れました。

PBLを選択した理由、動機、重視したことは何ですか?

岡谷:テーマとしては5つの選択肢があらかじめ用意されていました。手芸用品販売店のテーマを選んだのは、実践的なシステム開発を学ぶにあたって、もっとも現実にあり得そうな課題だと思ったからです。
財前:テーマ間の差異はそれほどありませんでした。テーマよりも、チームでの開発という点に重きを置いたので、チームメンバーと顧客(准教授)の顔ぶれを見て決めました。

受講前に期待したこと、また不安に感じていたことは何ですか?

岡谷:期待したことは、プロジェクトの中に深く入り込んだ指導を受けられることです。現実のプロジェクトで起きそうなことにどのように対応するかというスキルを身につけたかったからです。一方、不安に感じていたことは、システム開発の方法やデータベースやネットワークについての知識が自分には不足しており、スコープや要件をどう定めればよいか不明であったこと、さらに、チームメンバー全員がシステム開発初体験であり、力量が足りないと感じていました。特に大学外の方とうまくコミュニケーションが取れるかどうか不安でした。
財前:チーム開発に関するノウハウを得ることが目的でした。知識としては持っていたのですが実践できる場、機会が今までありませんでした。チームメンバーの中には高専出身でプログラミングスキルに長けたものがおり、とてもよい刺激になりました。システム開発初体験であり、力量が足りないと感じていました。

どんなスキルが不足していたと感じていましたか?

岡谷:データベース、ネットワーク、サーバ・クライアントのWebシステム、セキュリティの技術知識です。設計やテスト等、システム開発の方法論についての知識は、授業で学ぶことでスキルの不足を補うことができました。
財前:コーディングスキルやEclipseでの開発経験です。

PBLを受講して満足した点を教えてください。

岡谷:お客様との交渉から、何をどのように作ればよいかの議論まで、自分たちで行うことができた点です。チームで一つの目標に向かって、動くものを作れたことにも満足しています。先生方からもプロジェクト管理について丁寧な指導やアドバイスを受けられ、普通ではあまり学べないような、社会人講師の視点からのシステム開発で考慮・留意すべき点を授業で学べました。
財前:顧客がこちらの相談にかなりのってくれました。また、開発アプローチとして、プロトタイプを作りながら進める形を求められていたので、要件定義段階から手を動かすことになりました。これは、プロジェクトの進捗をスムーズにした大きな要因だと思っています。顧客からは高い満足度を得ることができました。プロジェクトの進め方はスコープ毎に進め、進捗もスムーズでした。

受講後の自己評価について教えてください。

岡谷:システム開発とチーム運営で注意すべきことについて学べたと思います。
財前:ある意味ラッキーなテーマだったと言えます。大学の先生が顧客ということもあり、指導することに慣れていて、学生が苦労することがほとんどありませんでした。特に要件定義はほぼ固まっていました。

PBLのメリット・デメリットはどこにあると思いますか?

岡谷:メリットは、プロジェクトの運営や管理について学べること、学生が自発的に取り組むことで座学と比べて学習効果が上がることです。デメリットは、チームの能力に合った課題と環境を設定しなければ、うまくプロジェクトが進まず学習効果が上がらない場合もあることです。また、チームメンバーの協力は欠かせない中で、協調性に欠けるメンバーが入った場合にプロジェクト運営が難しくなることもあります。
財前:ユーザー志向型のシステムを作ることができる点がメリットです。これは明らかに研究とは異なります。今後、ユーザーありきのシステム開発は当たり前なので、良い経験でした。一方、1年間の時間的な制約があるため、新しいことにチャレンジするのが厳しいこと、テーマ設定によってはイノベーション的なことが実施しにくいことが、デメリットになると思います。

ありがとうございました。

1ph_inoue03

左が財前 涼さん、右が岡谷 亮さん
(筑波大学大学院システム情報工学研究科コンピュータサイエンス専攻1年:取材当時)

(インタビュー・文 西村一彦)